親が認知症になる前の対策!認知症の財産管理対策4選のご紹介
不動産をはじめとする財産の管理は原則として自分自身で行います。自分の意思がはっきりとしている時は特に問題はありませんが、認知症などの意思能力が問われるような身体状況になると、法律上不都合が生じることも少なくありません。
特に不動産においては、意思能力がないと判断された場合に売ることも譲渡することもできなくなるため、住む人がいないのに管理費をかけて所有し続けなくてはいけない「負動産」を生み出すことにもつながります。
今回は認知症や重度障害になった時の対策方法と、なる前の予防対策として4つの方法をご紹介します。
ここで紹介されている方法全てを行えば安心ですか?
対策や予防方法については、お客様それぞれの置かれている状況や、所有している財産によっても異なります。実際にどの方法が適しているのかは、必ず専門家に相談して判断するようにしましょう!
不動産の所有者が認知症になると名義変更ができません
認知症になると「本人に意思能力がない」と判断されるため、不動産等の財産の名義変更ができなくなります。また、名義変更だけではなく預金口座の解約や不動産の売却等もできなくなります。
認知症の症状の度合いについて
一言に認知症と言っても、進行度合いによって意思能力の判断基準も変わります。この進行度合いや意思能力については医師の診断によりますので、認知症が認められた場合は進行度合いなどについても医師に確認して診断書をもらうようにしましょう。
重度の場合
ここでの重度は法律上の財産管理について「本人に意思能力がない」と診断された場合とします。
このような場合、本人の意思や家族の意思によって不動産の売却や名義変更をすることはできません。もし売却や名義変更を行う場合は家庭裁判所に申請をして成年後見人の選任をしてもらう必要があります。(法的後見)
軽度の場合
ここでの軽度は認知症が発症していたとしても、医師の判断により「本人に意思能力がある」と診断された場合とします。
このような軽度な場合は重度に進行する前に対策をするか、重度になってから成年後見人制度を利用するかを選ぶことができます。
ただし、進行する前の対策中に認知症が重度になってしまう場合や死亡してしまうケースもありますので、対策をする前には必ず司法書士等に相談しましょう。場合によっては司法書士や医師等の立ち合いによる意思の確認などが必要になる場合があります。
対策① 重度の認知症の場合、成年後見制度を使って親の財産を管理する
すでに認知症を発症していて重度と診断された場合は、原則として成年後見制度を利用する以外に親の財産を管理する方法はありません。
成年後見制度とは
成年後見制度(せいねんこうけんせいど)とは、認知症などの疾患により「判断能力がない」と判断された方の財産を守るために、本人の代わりに財産を管理する後見人を選任する制度です。
認知症,知的障害,精神障害などの理由で判断能力の不十分な方々は,不動産や預貯金などの財産を管理したり,身のまわりの世話のために介護などのサービスや施設への入所に関する契約を結んだり,遺産分割の協議をしたりする必要があっても,自分でこれらのことをするのが難しい場合があります。また,自分に不利益な契約であってもよく判断ができずに契約を結んでしまい,悪質商法の被害にあうおそれもあります。このような判断能力の不十分な方々を保護し,支援するのが成年後見制度です。
http://www.moj.go.jp/MINJI/a01.html
この成年後見制度を利用することで、成年後見人は本人に変わり次のことができるようになります。
- 財産の管理
- 遺産分割等の協議
- 財産の売買に関わる契約
また、成年後見人には「法定後見制度」と「任意後見制度」の2種類があります。
法定後見制度と任意後見制度について
法定後見制度と任意後見制度では主に「後見人を任意で決めることができるかどうか」に違いがあります。法定後見制度では自分の意思で後見人を決めることができないのに対し、任意後見制度では自分の信頼のおける人に後見人になってもらうことができます。
ただし、任意後見人制度を利用するためには、後見人を選任する時点で意思能力があることが前提となります。
成年後見制度のメリット
- 家庭裁判所によって選任された後見人が代理するため、財産管理等での家族間でのトラブルを減らせる(法定後見制度)
- 認知症になる前であれば、自分の信頼のできる家族に後見人を任せることができる(任意後見制度)
- 財産の所有者が認知症になった後でも、後見人の選任が終われば不動産の売却等を行うことができる
- 被後見人に財産を守ることができる
成年後見制度の目的は「被後見人の財産を守ること」ですので、後見人の自由に財産を管理することができません。そのため、法定後見制度では家庭裁判所が選任した後見人が管理をすることになります。(原則として家族ではなく司法書士などが選任される)
成年後見制度のデメリット
- 後見人の自由に財産を管理(売却等)することができない
- 一度後見制度を導入すると、被後見人が「回復」もしくは「死亡」するまで続く
メリットでもある「被後見人の財産を守る」ということが、一方でデメリットに働くこともあります。
例えば、被後見人の子供が生活費に困った場合など、本来であれば被後見人である親が援助のために貯金を崩したり、自宅の売却などを検討することもありますが、後見制度を導入した後では原則的に子供への支援を行うことができません。
※配偶者への金銭的支援も同様です。ただし、配偶者や未成年の子供への「生活費等」の支援は認められています。
また、後見制度は一度導入すると被後見人が回復するか死亡するまで制度が続きます。家族が後見人になる場合は身体的な負担になる場合もあり、司法書士などが選任された場合は後見報酬を支払い続けることになるため、金銭的負担になる場合もあります。
対策② 認知症になる前(もしくは軽度の間)に生前贈与で親の財産を相続する
認知症が認められた場合でも、意思能力が認められる軽度の状態であれば、不動産の名義変更を行うことができますので、重度になる前に生前贈与を行うことが可能です。
生前贈与とは
親から子供へ財産を残す方法は原則として「売買」か「贈与」のどちらかの起因が必要になります。贈与では「生きているうちに子供へ名義変更する方法」と、「なくなったとに遺産として相続する方法」に2種類に分かれ、前者を生前贈与と呼びます。
相続税の節税対策として生前贈与を行うことが多くありますが、ここでは認知症の対策として行う生前贈与についてご説明していきます。
生前贈与を行う場合のメリット
- 親が重度の認知症になった後でも、子供の自由に財産を使うことができる
- 生前贈与の方法によって、相続税等の税金対策にもつながる
生前贈与の一番のメリットは、親が認知症になる前に名義を子供にうつすことができるので、親の健康状態に関わらずに子供の意思で財産の管理や売却をすることができる点です。
これにより、親が重度の認知症になった時の老人ホームへの入居資金などを、物件の売却によって捻出することもできます。(認知症になった後の売却はとても複雑になるため、老人ホームに入居した後もそのまま空き家となる場合があります。)
生前贈与を行う場合のデメリット
- 専門家を入れずに生前贈与をすると多額の税金が課せられる可能性がある
- 不動産によっては贈与を受けない方がいい場合がある
生前贈与には税金の問題が必ず生じるため、知識のないまま名義変更をしてしまうと後々多額の税金が課せられてしまい、せっかく贈与を受けた不動産を安く売ることになってしまうこともあります。
また、贈与を受ける不動産によっては、その後の管理や意地が大変になることがあり、結果として贈与を受けない方が良かったという問題に繋がる可能性があります。
生前贈与の税金対策(特例制度)について
生前贈与は贈与の仕方や、誰から誰に贈与されるかなどによって、利用できる特例があります。この特例を利用することで大幅な節税に繋がることもありますので、利用できるものがあるかどうか確認しておきましょう。
ここで紹介する特例は令和3年5月17日現在のものです。
夫婦間の生前贈与に使える「配偶者控除」
婚姻期間が20年以上ある夫婦の間で、居住用の不動産を贈与した場合(もしくは取得用の金銭)に最高2,000万円までの配偶者控除を受けることができます。また、基礎控除の110万円とは別に適用されます。
適用条件
- 夫婦の婚姻期間が20年を過ぎた後に贈与が行われること(事実婚は対象外)
- 配偶者から贈与された不動産が居住用であること。または取得するための金銭であること
- 贈与を受けた年の翌年3月15日までに、贈与を受けた人が実際に住んでいて、その後も住み続ける見込みがあること
手続き方法
下記の書類を用意して、贈与を受けた人が住む住所地を管轄する税務署に申告をおこないます。
- 財産の贈与を受けた日から10日を経過した日以後に作成された戸籍謄本又は抄本
- 財産の贈与を受けた日から10日を経過した日以後に作成された戸籍の附票の写し
- 居住用不動産の登記事項証明書その他の書類で贈与を受けた人がその居住用不動産を取得したことを証するもの
相続時精算課税
相続時精算課税制度は、贈与を受けた時の贈与税を最大で2,500万円まで非課税とし、贈与者が亡くなった時に「相続税」として納税をする制度です。
通常は相続税よりも贈与税の方が高くなりますが、この制度を利用することで生前贈与であっても相続税と同じ税金で贈与をすることができます。
また、2,500万円を超える贈与については一律で20%の贈与税が課せられます。
適用条件
- 贈与者が贈与した年の1月1日に60歳以上であること
- 受贈者(贈与を受ける人)が、贈与を受けた年の1月1日に20歳以上であること
- 受贈者が贈与者からみて直系卑属等の「推定相続人」であること
- ※推定相続人は、その段階で先順位の相続人のこと(代襲相続も含む)
手続き方法
贈与があった年の翌年2月1日から3月15日までの間に、納税地の所属税務署に下記の書類とともに申告をします。
- 相続時精算課税選択届出書
- 贈与税の申告書
- 受贈者の戸籍謄本(妙本)
- 受贈者の戸籍の附票
- 贈与者の住民票もしくは戸籍の附票(贈与者の氏名・生年月日・60際になった時以降の住所)
相続時課税選択届出書はこちらから
贈与税の申告書の第1表はこちらから、第2表はこちらから
相続時精算課税利用時の注意点
- 一時的に非課税となるだけであって、贈与する金額によっては相続時に納税が必要になる。
- 相続税として生産するときは、贈与時の時価で計算されるため、時価が低下すると余計な税金が必要となる。
- 歴年課税に戻すことができなくなる
- 小規模宅地等の特例を利用できなくなる
対策③ 家族信託で認知症後もできるだけ自由な財産管理を目指す
認知症になる前に家族信託をしておくことで、成年後見人制度を利用するよりも柔軟に不動産を管理・売却することができるようになります。ただし節税面ではあまりメリットがなかったり、受託者を決める際のリスクがあります。
家族信託とは
家族信託とは、自分の財産を家族に管理してもらうことです。家族以外の人に委託することもでき、正式名称は「民事信託」と言います。(一般的には家族に委託することがほとんどのため、一般名称として家族信託とされています。)
家族信託では一つの財産に対して次の3つの役割を持つ人を決定します。
- 委託者
- 受託者
- 受益者
委託者とは
委託者は財産の所有者であり、その財産の管理を家族に任せる人のことを指します。
財産の管理方法や処分方法などについて、委託者は受託者(管理をする人)に対して前もって取り決めを行うことができます。また、受託者が正しい管理をしなかった場合など解任する権利ももっています。
受託者とは
受託者は委託者から財産の管理を任された人のことです。
不動産の場合、受託者が登記簿上の所有者となるため、固定資産税等の請求は受託者の元に届きます。(誰が支払うかは信託契約書の内容による)
管理を依頼された財産に関して、管理に必要なためのほとんどの権限を持つことになり、次の3つの義務が課せられます。
- 善管注意義務
- 忠実義務
- 分別管理義務
受益者とは
受益者とは、管理する財産が賃貸用の不動産などの場合、その賃貸によって得られる利益を受け取る人のことを指します。
この受益者は「委託者」もしくは「受託者」と兼任することもできますし、複数人に設定することもできます。兄弟姉妹が居る場合は、利益を分割するために受益者を複数人に設定することもあります。
また、受益者が亡くなった場合は次の世代に相続させることもできます。
家族信託が必要とされるケース
基本的には高齢の親が財産(不動産・株式・現金等)を持っている場合に、認知症対策として利用されるケースが多くあります。
また、年齢による認知症だけではなく、事故や病気による高度障害の対策としても利用されることがあります。
家族信託を利用するメリット
- 認知症等の病気があった場合の財産管理が楽になる
- 遺言書の役割も兼ねる
- 世代を超えた相続の指定ができる
家族信託の一番のメリットは、認知症を発症した後でも信頼できる家族にその不動産の管理を任せる続けることができる点です。
基本的には任意後見制度と同じようなメリットを得ることができますが、後見制度とは異なり裁判所が関与することがないためすぐに財産管理をしてもらうことができます。
また、後見制度では制度を導入した後は後見し続けなくてはなりませんが、そういったデメリットを防ぐこともできます。
家族信託のデメリット
メリットの多い家族信託ですが、もちろんデメリットも存在します。きちんとデメリットを理解した上で利用するようにしましょう。
- 受託者に大きな権限を委ねる
- 節税効果がほとんどない
- 税金の支払い等が複雑になる可能性がある
- 比較的新しい制度で対応が難しい場合がある
家族信託での一番のデメリットは、受託者に対して財産管理の大きな権限を委ねることになる点です。
一般的には家族に信託することが多いのですが、あくまでも民事信託ですので、家族以外の受託者を選ぶこともできます。もちろん家族の場合も同様ですが、受託者が暴走してしまった場合に財産を守ることができなくなります。
後見制度であれば被後見人の財産を守ることが優先されますので、その部分での違いが大きく出ます。
また、この制度自体が2007年改正された比較的新しい制度のため、裁判等の前例が少なく問題に直面した場合の対策が不透明な部分もあります。間違えても専門家を入れない状態での信託契約等は結ばないようにしましょう!
対策④ 売却による現金化と住み替えの検討
不動産を財産としてもっている場合、認知症や相続対策としてあらかじめ現金化しておくという方法もあります。
売却・住み替えが有効とされるケース
- 子供が将来的に住む可能性が低い住宅を所有している(将来空き家になる)
- 夫婦(一人)で住むには広すぎる家
- 老人ホームへの入居を検討している
- 相続人が一人ではない
売却による現金化のメリット
- 不動産よりも現金の方が相続時にトラブルになりにくい
- 老人ホーム等への入居の費用に当てることができる
- 自分の生活にあった住宅に住み替えをすることができる
売却による現金化の一番のメリットは、現金しておくことで相続の分割が楽になるという点です。
相続人が複数人いる場合、不動産のままにしておくと相続時のトラブルにつながることもあります。また、相続した不動産が売れるまでに時間がかかることで、相続税の捻出に困るという事態を避けることにもなります。
売却による現金化のデメリット
- 不動産として相続するよりも相続税が高くなることがある
- 売却後の住居計画をしっかりと立てておく必要がある
相続税だけを考えた場合、基本的には現金として相続するよりも不動産として残した方が、相続税の対策には有効となります。
そのため、相続税という面で見ると売却による現金化はデメリットが多くなります。
また、売却後の住居についての計画をきちんとしておかないと、その後の住居についてのトラブルにつながる可能性があるので注意が必要です。
元気なうちに余裕のある計画を
人間いつまでも健康でいられるとは限りません。いつか来る老いや病気に備えて、元気なうちに対策をしておくことが不動産を持つ人にとって大切なことであり、義務とも言えます。
健康状態だけではなく、現金などの財産についても同様です。コロナ禍などにより住宅ローンの返済などが苦しくなっている方も、早めの対策をしましょう。
不動産の売却には平均でも半年、長ければ数年かかることもあります。ギリギリの駆け込み相談ではご提案できないことも多くあります。
売却を検討していない場合でも、一度でも専門家に相談しておくことで将来の備えに関する意識が高くなります。相続や認知症など、少しでも不安に思うことがあれば、迷わずにまずはアイビスホームにご相談に来てください。
後からのしつこい営業も致しません(^^)
相続診断士を取得している社長の窪多がお客様目線でご相談の乗らせていただきます。必要であれば信頼できる弁護士や司法書士の先生をご紹介いたします。
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