配偶者居住権は、社会の変化に合わせて作られた権利で、家族構成の多様化にも柔軟に対応することができます。ただし、とても複雑な権利でもあるので、正しい知識がないまま設定登記をしてしまうと、取り返しのつかないことになる可能性もあります。

今回の記事では、配偶者居住権を正しく使うためにメリット・デメリットと一緒に、配偶雨者居住権を利用するときの注意点をまとめました。

実際に配偶者居住権を設定する場合は、必ず専門家への相談をすることをおすすめしますが、予備知識としてご参考にしていただければ幸いでございます。

配偶者居住権の基本的なことについては「配偶者居住権とは?制度の説明・登記方法・背景について」で記事にしていますので、こちらもご覧ください。

配偶者居住権を設定することでデメリットがあるようには思えないのですが、どんなデメリットがあるんですか?

デメリットは相続の状況などによってさまざま生じる可能性があるので、一概には言えないことも多くあります。トラブルの多くは、相続人全員が配偶者居住権に関する知識不足のまま設定登記をしてしまう事ですので、まずはどんなメリット・デメリットがあるのか見てみましょう!

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配偶者居住権を利用するメリットとは?

配偶者居住権を利用する一番のメリットは、その名の通り「配偶者が住み続けることが出来る事」です。

家族構成の多様化により、相続の分配時に配偶者が家から出なくてはならなくなる事が増えました。そういった事情に合わせて作られた制度ですので、配偶者の居住権を守ることが一番の目的でもあり、最大のメリットとも言えます。

メリットについても相続状況によって様々ですが、一般的には次のようなメリットがあります。

  • 配偶者が今の家に(無償で)住み続ける事ができる
  • 配偶者が生活費のための現金を確保する事ができる
  • 配偶者と相続人(被相続人の子供)に血縁関係がない場合のトラブル防止になる
  • 二次相続時の節税になる事がある

それぞれのメリットについて、詳しくみていきましょう。

配偶者が今の家に(無償で)住み続ける事ができる

被相続人と一緒に住んでいた配偶者が、被相続人が亡くなった後もその家に住み続ける。とても当たり前のように聞こえますが、相続状況によってはこういった事が難しい場合もあります。

配偶者が家を手放す必要があるのはどんな時?

相続が発生したとき、遺言者がない場合であれば相続人それぞれの相続分は、相続人同士が話し合いを行い(遺産分割協議)自由に決める事ができます。ただし、話し合いがうまくまとまらない場合、裁判所に判決を求める場合(遺産分割協議調停)が出てきます。

このように遺産分割協議調停に発展した場合などに、相続分の一定の基準として「法定相続分」というものが決められています。この法定相続分は被相続人と相続人の関係によって決められますが、配偶者は基本的に1/2以上の相続分が定められています。

この法定相続分の価格が相続する(住んでいる)家よりも下回っている時、配偶者がそのまま住む続けるためには他の想像人に対して支払いを行う必要がある場合がります。

支払う現金と、その後の生活費が確保できている場合は問題なく済むこともありますが、多くの場合は家を売却するなどして相続の分割を行うため、配偶者がそのまま住み続ける事が難しくなります。

なぜ配偶者居住権を使うと解決できるの?

配偶者居住権は、相続対象となる「家」を所有権と配偶者居住権のふたつに切り離して考える事ができます。そして、この二つの権利にはそれぞれ適切な価格が設定されます。

従来の相続では配偶者が家の所有権ごと相続していたため、配偶者の相続分が法定相続分をはるかに上回るケースが多くありました。配偶者居住権を設定することで、家の所有権を他の相続人が相続することになるため、配偶者の相続分を減らす事ができるようになります。

配偶者居住権の価格計算は少し複雑になりますが、概ね所有権と配偶者居住権は「1:1」程度になります。配偶者には1/2以上の法定相続分がありますので、遺産が「家だけ」だったとしても法定相続分内でおさめる事ができ、他の相続人への支払いが起きることがなくなります。

相続する家が店舗併用住宅・賃貸併用住宅でも配偶者居住権を設定できる

店舗併用住宅や、住宅の一部を賃貸として貸し出しているような家の場合でも、配偶者居住権を設定する事ができます。このような家の場合、普通の居住用の家と比べて立地がいい事も多く、相続するときの評価額も高くなりやすいのが特徴です。

評価額が高くなるということは、住み続けるための相続分も多くなりますが、配偶者居住権を設定することで半分程度の価値を所有権として他の相続人に渡す事ができるため、無償で住み続ける事ができるようになります。

ただし、賃貸併用受託の場合、相続発生時に賃貸として貸し出しをしている部分については、配偶者居住権の対象外になりますので注意が必要です。

配偶者が生活費のための現金を確保する事ができる

遺産には不動産・現金・株価証券・車など多くの種類がありますが、全体の評価額の割合の多くを不動産が占める事がほとんどです。そのため、不動産を相続する場合は現金などの他の遺産を相続できなくなる可能性が高くなります。

配偶者の場合、被相続人と生前の生活費を共有している場合が多く、被相続人からの相続で現金を相続できないと生活費の捻出に困る場合があります。相続人それぞれの相続分の調整を行うことで解決できることもありますが、相続人同士の関係性が良好でない場合など、話し合いで解決できない事が予想される時は注意しましょう。

このようなケースでも、配偶者居住権を設定する事で配偶者の相続分を減らす事ができますので、配偶者は今の家に住み続けながら生活費の確保ができるようになります。

配偶者と相続人(被相続人の子供)に血縁関係がない場合のトラブル防止になる

現代社会では家族構成の多様化が進み、血縁関係のない親子関係も珍しくはありません。血縁関係にかかわらず、相続人同士の関係性が薄くなるほど相続でのトラブルに発展しやすくなります。

このような血縁関係のない親子での相続の場合、配偶者居住権を正しく使うことで配偶者と子供の両方の権利を守る事ができます。

配偶者が住み続ける権利を守る

ここまでで何度か説明している通り、配偶者居住権を設定する事で配偶者の相続分を減らす事ができるので、仮に遺産分割協議調停になったとしても、配偶者の居住権については守る事ができます。

また、他の相続人に対して配偶者が代償金を支払うリスクもほとんどなくなります。

被相続人の子供の相続権を守る

被相続人の連れ子と被相続人の配偶者が養子縁組をしていない場合、配偶者が亡くなった後の二次相続では被相続人の連れ子は配偶者の相続人にはなりません。

そのため、もし通常の相続で配偶者が家や土地などの不動産をそのまま相続してしまうと、被相続人の実子はその後もその不動産を相続することができなくなってしまいます。このような関係もあり、血縁関係のない親子の場合トラブルに発展しやすいとも言えます。

配偶者居住権を使うことで、配偶者には「住む権利」を与え、子供には「所有権」を与える事ができます。配偶者が亡くなった場合「配偶者居住権」は消滅するため、その時点で子供が不動産の完全な相続権を得ることになります。

結果として、間接的な「配偶者から血縁関係のない被相続人の子供」への二次相続の形を取る事ができます。

このように、配偶者居住権は配偶者だけではなく子供の権利を守るためにも使う事ができますので、特に血縁関係のない親子にとっては重要な制度です。

二次相続時の節税になる事がある

配偶者が亡くなってその子供が相続をするとき、本来の相続であれば配偶者が相続していた家の評価額によって、相続税がかかります。

配偶者居住権を設定していた場合は、一次相続の時点ですでに子供が所有権を有しているので、配偶者が亡くなった場合でも配偶者居住権が設定されていた家については相続税がかかりません。

一次相続では「配偶者居住権」と「所有権」のそれぞれの評価額に応じて相続税が課税されます。

節税対策については、他の遺産の状況や相続人の人数など様々な条件によって変わってきます。そのため、あくまでも「節税になる事がある」程度に捉えておくようにしましょう。特に小規模宅地等の特例を土地に適用させる場合、土地の広さによって敷地利用権と所有権などの関係も出てくるため、専門家でないと判断が難しくなります。

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配偶者居住権を利用する時に考えるデメリットとは?

いいことづくしに思える配偶者居住権ですが、使い方や相続状況によっては大きなデメリットを作ってしまう可能性もあります。そのため、配偶者居住権の設定を検討されている人は、必ず専門家に相談するようにしましょう。

デメリットは配偶者・所有者のそれぞれに生じる場合があります。一般的なデメリットとして多いものは次のとおりです。

  • 相続時の配偶者の年齢によって評価額が大きく異なる場合がある
  • 配偶者居住権は売却・譲渡・担保にする事ができない
  • 配偶者居住権が設定されている家は売却・譲渡が困難になる
  • 固定資産税等の各種支払いについて揉める場合がある
  • 配偶者居住権は簡単には消滅させることができない

それぞれのデメリットについて詳しく見ていきましょう。

相続時の配偶者の年齢によって評価額が大きく異なる場合がある

配偶者居住権の評価額については、おおよそ所有権と1:1程度になることが多いとご説明しましたが、これに関しては配偶者の相続時の年齢によって大きく変わる可能性があります。

というのも、配偶者居住権は原則として「配偶者が終身住み続ける権利」ですので、配偶者の年齢が若いほど居住権が設定される期間が長くなりますので、評価額としても高くなります。

具体的な計算方法としては下の画像をご覧ください。

配偶者居住権の評価額計算方法

(計算方法は国税庁のHPの記載内容をもとにしています。)

難しい言葉だらけで難しいですよね・・・。このように配偶者居住権の価値を決めるのはとても難しく、専門家の調査などが必要になる場合もあります。そのため、夫婦・家族で生前に話し合いを行い、配偶者居住権の評価額などについても専門家に相談しておくと安心です。

万が一配偶者居住権の価格が高くなりすぎる場合、結果として配偶者の手元に生活費等の現金を残す事が難しくなることもあります。そういった場合は不動産の現金化なども検討する必要もありますので、早めの相談が何よりも大切です。

配偶者居住権は売却・譲渡・担保にする事ができない

多くの財産は、相続した人の物になるのでその価値に応じて売却や担保にして現金化をする事ができます。ところが、配偶者居住権については「配偶者のみ」に適用される制度ですので、他の人に売却・譲渡をする事ができません。(仮にできたとしても、受け取った側が活用する事ができません)

例えば、相続発生時は配偶者が健康で働く事ができていたため、特に現金の必要性がなかったとしても、年齢や病気・怪我などで働けなくなってしまうことも考えられます。

そういった場合、通常の相続のように所有権ごと相続している不動産であれば、売却して生活費などに変えることができますが、配偶者居住権はそのような使い方ができません。

賃貸用住宅として貸し出しをすることは可能

解決策の一つとして所有者の許可を得ることで賃貸として貸し出しをする。という方法があります。

この場合、貸し出しによって得る賃料は配偶者に帰属するのが原則となりますので、配偶者の生活費として活用することができます。ただし、所有者の許可が必要になることと、通常の住宅では丸ごと貸し出しをすることになるので、配偶者自身の住居の確保などが必要になります。

そのため、配偶者居住権を設定するときは、他の資産でどれだけ生活費を賄うことができるのかなどの計画も大切になります。

配偶者居住権が設定されている家は売却・譲渡が困難になる

配偶者は居住権を売却することはできませんが、所有者は所有権を売却することが可能です。ただし、配偶者居住権が設定されている物件の場合、ほとんど買い手が居ないと考えておきましょう。

というのも、配偶者居住権は配偶者が住み続ける権利が設定されていますので、仮に他の人が所有権を買い取ったとしても、住むことができません。住むことができない物件をわざわざ買う人もいませんので、結果として配偶者居住権が設定されている状態での売却はほぼ不可能となります。

固定資産税等の各種支払いについて揉める場合がある

土地や建物を管理するには、固定資産税や日々の修繕費などの最低限の費用が必要になります。所有者と利用者が同一人物であれば誰が支払うかは明確ですが、別々の場合はあらかじめ定めて(確認)しておかないと、どちらが支払うのかで揉める可能性があります。

配偶者居住権が設定されている家の場合、固定資産税や簡易な修繕費は住んでいる配偶者が負担をします。大規模リフォームや修繕が必要になった場合は、所有者が負担する決まりです。

この部分はあらかじめ配偶者と所有者がきちんと話し合いをして、どのように支払うのかなど取り決めをしておくことで極力トラブルを避けることができます。

土地の固定資産税に関しては、土地の所有者が支払います。

配偶者居住権は簡単には消滅させることができない

配偶者居住権が消滅するのは、原則として存続期間の終了(あらかじめ決めた期間、もしくは配偶者の終身)ですが、配偶者と所有者の両者の同意があれば消滅させることも可能です。

ただし、消滅させるにはいくつかの注意が必要になります。

  • 認知症などによって同意がえられない場合がある
  • みなし相続税や譲渡所得税がかかる場合がある

認知症などにより同意が得られない場合がある

配偶者が認知症などになった場合、配偶者の同意が認められずに配偶者居住権の消滅をさせることが難しいケースがあります。

配偶者居住権が設定されている物件は、売却や譲渡をすることも難しいため、配偶者が認知症で老人ホームに入居していたとしても、その物件を売却することが難しくなることもあります。

みなし相続税・譲渡所得税がかかる場合がある

配偶者居住権をうまく利用することで節税につながることがあります。そのため、悪用を防止するために不当な配偶者居住権の消滅があった場合などには、みなし相続税や譲渡所得税が課税されることがあります。

例えば、所有権2,000万円、配偶者居住権2,000万円として相続した家を、相続から1年後に配偶者居住権を消滅させたとします。この時、この家は完全な所有者のものとなりますので、本来であれば所有者から配偶者に対して対価を支払う必要があります。

支払った対価が適切な金額であれば問題はありませんが、親子だからといって無償で譲渡するような場合、配偶者居住権の不当な利用となる可能性がありますので注意が必要です。

このような場合は、適切な金額や手続きについて、しっかりと専門家に相談するようにしましょう。

火事や災害などで建物が消失した場合、配偶者居住権も一緒に消滅しますが、みなし相続税や譲渡所得税などはかかりません。

配偶者居住権の利用は賢く慎重に

ここまでメリット、デメリットについてご説明してきましたが、配偶者居住権を利用する際は他にも注意することがたくさんあります。

配偶者居住権についての基本内容をまとめた「配偶者居住権とは?制度の説明・登記方法・背景について」でも触れていますが、基本的な注意点をここでおさらいしておきましょう!

  • 相続発生時に配偶者が老人ホームに入居している場合は利用が難しい
  • 所有権を誰に相続させるかは特に慎重に決める
    • 配偶者との関係性の問題
    • 配偶者居住権が消滅した時の兄弟間での不公平など
  • 戸籍上の配偶者のみが利用できる(内縁・事実婚では認められない)
  • 配偶者居住権は自動で取得できる権利ではない
    • 配偶者に配偶者居住権を相続させたいときは、遺言書を用意しておく
  • 配偶者居住権を相続させたい時の遺言書は書き方に注意が必要
    • 相続させる、遺贈するで相続人の選択肢に大きな違いが出る
  • 相続が放置されている物件の場合、配偶者居住権を利用できない場合がある
  • 他の制度や法律との兼ね合いがとても大切

注意点のたくさんある制度ですが、正しく使うことで配偶者も子供も守ことができる制度です。相続人のみなさんが正しく情報を共有することで、トラブルも防止できます。

制度について不明なことがある場合は、しっかりと専門家に相談するようにしてください。

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相続診断士・宅地建物取引士の窪多が、お話を聞かせていただきます。また、必要であれば信頼のできる弁護士・税理士の先生方をご紹介させていただきます。

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