過去の記事で配偶者居住権の基本的なこと、メリット・デメリットについてご説明をさせていただきました。

配偶者居住権とは?制度の説明・登記方法・背景について
配偶者居住権の設定は慎重に!メリット・デメリット・利用時の注意点

配偶者居住権はできたばかりの制度で、現状ではトラブルの報告数なども少ないのですが、これから時間が経つにつれて起こり得るトラブルもいくつか予想されています。

今回の記事では、配偶者居住権をすでに設定されている人向けに、どんな対策をしていけばいいのかご紹介をしていきます。せっかく設定した便利な制度ですので、トラブルを避けて上手く付き合っていくためにも、ぜひご参考にしてみてください。

手続きが終わったからといって安心してはダメ!配偶者居住権は相続人同士のこれからの付き合い方も大切になります。

配偶者居住権の場合、一つの建物を「居住権」と「所有権」に分けていますので、それぞれの権利を持つ人同士がどれだけコミュニケーションを取れるかによっても、トラブルの可能性が大きく変わります。

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配偶者居住権による今後想定されるトラブルとは?

配偶者居住権は新しく施行された制度のため、現在はトラブル数も多くはありませんが、実際に利用者が増え時間の経過とともにトラブルの報告も増えてくると予想されています。

予想されているトラブルのほとんどは「配偶者(居住者)」と「子供などの相続人(所有者)」の認識のずれや、生活・健康状態の変化によるものです。また、遺産分割協議時に配偶者居住権についての話し合いが不十分な場合にもトラブルを招く大きな原因となります。

配偶者(居住者)の生活・健康状態が招くトラブル

現在の日本では約28%が65歳以上となり、今後も高齢化が進むと言われています。配偶者居住権の利用者もある程度高齢者を想定して作られている制度ですが、年齢を重ねることで健康被害による生活の変化が必要になることがあります。

ちょっとした生活習慣の変化であれば問題はありませんが、今住んでいる住居では生活が難しいような変化や、一人では生活が難しくなることも珍しくはありません。

①認知症により配偶者居住権の消滅ができなくなるケース

他の相続手続きでも同様ですが、認知症になってしまうと「相続権等の権利を持っているのに、自分で手続きができない」という状態になります。

配偶者居住権は原則として配偶者の終身で認められている権利で、消滅させるには配偶者と所有者の両方の同意が必要です。そのため、もし配偶者が居住権の権利を有している状態で認知症になると、両者の同意での消滅が難しくなります。

認知症等の症状の重さによっても変わりますが、場合によっては老人ホーム等への入居が必要になる場合もあります。こういった場合、配偶者居住権がついたままの物件は買手を見つけるのが難しく、せっかく相続した住居が誰も住んでいない空き家状態になります。

②バリアフリーなどのリフォームが必要になるケース

相続時は気にならなかった玄関の段差、お風呂場・脱衣所の気温、2階に上がる階段・・・。最近ではバリアフリー化の進んだ住宅も多くなってきていますが、まだまだ高齢者が快適に過ごせる住宅というのは多くはありません。

各所に手すりをつける程度のリフォームであれば問題はありませんが、場合によっては庭先からスロープを作ったり、2階に上がるエレベーターが必要になる可能性もあります。

こういった大規模なリフォームで生じるのが費用の問題です。

小規模なリフォームであればその建物に住んでいる配偶者が費用を出しますが、大規模なリフォーム等、建物の利便性を変えるような有益費の場合は、所有者が負担することになります。

自分の住んでいない建物のリフォーム費用を出さなくてはいけない事などから、不満が出てしまう事も少なくありません。また、場合によってはリフォーム直後に老人ホームへの入居が決まったり、認知症などによって配偶者居住権の消滅が難しく、建物の売却も難しくなるというケースも出てくることも予想できます。

子供などの相続人(所有者)の生活の変化によるトラブル

生活の変化は配偶者だけではなく、所有者である子供にも同様に起こり得ます。例えば仕事の転勤で遠方への引っ越しが必要になったり、不景気によって職を失ってしまう可能性もあります。

このように生活の変化だけではなく、考え方などの変化もあり、変化の仕方によっては配偶者の居住権が必ずしも守られるとは言えないのが現状です。

①配偶者居住権つきの物件を売却するケース

ここまで、配偶者居住権つきの物件は「買手がつきにくい」「価格が下がる」とご説明してきましたが、全く売れないというわけではありません。実際、配偶者居住権は配偶者が亡くなると消滅する権利ですので、物件取得時は制限があったとしても時間の経過で完全な所有者になることができます。

場合によっては、配偶者居住権が消滅した時の価値を計算して、配偶者居住権が設定されている間に安く買っておきたいという人・業者も出てきます。

コロナ禍のような状態が長く続くと、多少安くてもすぐの現金が必要となり、配偶者が住んでいる状態でも売却をしてしまうケースが増えてくるでしょう。

もし所有権が第三者に渡った場合、「配偶者居住権の登記」をきちんと行なっていないと、配偶者が追い出されてしまうことになります。

また、登記をきちんと行なっていたとしても、他人が所有者になることでコミュニケーションが取れずに住みにくい環境になってしまう可能性もあります。

②相続人同士の不平不満が多くなるケース

配偶者居住権を設定した時の相続で、相続人が「配偶者」と「子供二人」など、配偶者以外の相続人が複数人いる場合もあります。そういった場合、建物の所有権は原則として誰か一人が相続しています。

誰が所有権を持つかについては、遺産分割協議や遺言書などで取り決めが行われているはずですが、時間の経過とともに相続人同士で相続の不平等性について、不平不満が出てくる可能性があります。

例えば、物件の価値そのものが変動して、所有権を得た相続人が大きく得をする事もあります。もちろんその逆もあります。

特に配偶者居住権の価値については、かなり曖昧な部分がありますので、相続時の話し合いを慎重に行うことが大切です。(相続税等の計算のための評価額と、実際の市場価値に大きな差がある場合がある)

③遠方への引っ越しなどにより土地の管理が難しくなるケース

配偶者居住権は建物にだけ適用され、土地については必要な限度で利用できるとされています。配偶居住権を利用する相続の場合、多くは土地の所有者が別になっている事が想定されます。

土地の面積が広い場合、そこに住んでいる配偶者だけでは土地の管理が難しく、所有者が定期的に草刈りなどの管理を行う必要があります。このような場合、もし所有者が遠方への引っ越しが必要になると管理が行き届かなくなり、近隣とのトラブルに発展する場合があります。

また、配偶者居住権では「配偶者は、配偶者居住権に基づき居住建物の使用及び収益をする場合には、それに必要な限度で敷地を利用することができる。」とされていて、具体的な利用範囲については明確に定められていません。

そのため、土地の管理が難しくなり第三者に売却した場合など、土地の利用権を巡ってのトラブルに発展する可能性もあります。

配偶者居住権設定後のトラブル対策方法は?

一番は配偶者居住権を設定する前に、きちんと相続人同士で話し合いを行い、専門家を交えてさまざまなトラブルについて想定しておく事が大切です。すでに設定してしまっている場合については、トラブル防止のために他のアプローチをしていきましょう。

①居住者と所有者が適度なコミュニケーションを取る

配偶者居住権を設定する相続の場合、相続人と配偶者の関係性が良くない場合・薄い場合がありますが、最低限のコミュニケーションが取れると、トラブル防止に大きく役立ちます。

例えば、認知症などの健康状態や、転勤などの仕事の状況などについては、日頃のコミュニケーションの中から感じ取ることができる事もあります。また、ちょっとしたリフォームや建物に不具合などについても、所有者が把握する事ができます。

もし当人同士でのコミュニケーションが難しい場合などは、専門家に相談するなど第三者を間に入れることで円滑なコミュニケーションを試みるもの一つの手です。

②大きな変化があるケースについて話し合っておく

日頃のコミュニケーションが難しい場合でも、今後起こりうるトラブルの原因について、専門家を交えて話し合いの場を設ける事で、お互いに今後の注意点を把握する事ができます。

もちろん相続前に話し合いができている事が理想ではありますが、仮に話し合いが不十分なまま相続を終えてしまっていたとしても、トラブルが起きる前に改めて話し合いをしておくことで、防止策をお互いに考える事ができます。

特に「認知症」「建物の売却」「土地の売却」についてはお互いのリスクが大きくなりますので、しっかりと話し合いをしておきましょう。

専門知識がない状態での話し合いは、お互いのリスクを大きくする可能性があります。必ず専門家を交えて話し合いをするようにしましょう。

配偶者居住権つきの物件を売却したい場合は?

どれだけ念入りに話し合いを行なっていたとしても、予測できない生活の変化などによって、配偶者居住権つきの物件を売却したくなる場合もあります。

もし売却を検討される場合、配偶者居住権をそのままにして売却するのか、消滅させてから売却した方がいいのか、売却しなくても解決できる方法がないのか、などたくさんの可能性を検討する必要があります。

例えば売却するとしても、配偶者居住権を消滅させる事で売却益を高くし、その分配偶者への生活費・住居のサポートを行う方が円満に解決できる事もあります。

売却を検討する理由、物件の状況などによっても対策が変わってきますので、ご自身での判断ではなく専門家に相談をした上で、どのような方法がいいのかを選ぶようにしてください。

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