いきなりですが、家族信託がどのような時に役立つ制度かご存知ですか?

家族信託(民事信託)は2007年に施行された制度で、比較的新しい制度です。そのため、どのような制度なのか、どんな人がどんな時に使えるのかなど、まだまだ一般的には広まっていない制度です。

また、多くの方が「自分には関係ない」と感じているようですが、2018年の調査では40代以上の持ち家率は50%を超え、50代後半になると70%以上の世帯が持家に住んでいます。(参照元:Yahoo!ニュース

家族信託は主に認知症の対策などに用いられる制度で、持ち家(マンション・戸建て)に住んでいる人は必ず一度は検討をする必要がある制度です。

今回の記事では実際に家族信託が役に立つケースを4選ご紹介しますので、ご自身の置かれている環境と比べながら検討の材料にしてみてください。

家族信託は使い方次第でとても柔軟な財産管理ができる制度ですが、まだまだ新しい制度で使い方の難しい側面もあります。ご利用の際は必ず専門家に相談して、正しい利用を心がけましょう!

家族信託を使う一般的なケース4選をご紹介

ここからは家族信託の利用が検討できる一般的なケースをご紹介していきます。なお、家族信託のメリットやデメリット、家族信託がどういった制度なのかについては「家族信託で財産管理の何が変わる?メリット・デメリットを深掘りしてご紹介」でご紹介していますので、ご参考にしてください。

ケース① 自分の認知症・重度障害対策

まず最初のケースは、自分の健康状態を考えた利用方法です。

不動産等の財産を所有している人の場合、万が一自分の健康状態が悪くなり「意思能力がない」と判断されると、所有している財産の管理や処分の対応に家族が困る場合があります。

特に問題となるのが、認知症などで老人ホーム等の施設に入居する際、今まで住んでいた土地や住宅の処分ができなくなるということです。

自宅の処分などをしなくても老人ホームの入居費用やその後の生活費に困らないだけの蓄えがある場合、そこまで大きな問題になりませんが、多くの場合は自宅の売却費用などを入居費用に充てることになります。

認知症の場合は自分が所有している不動産であっても、自分の意思で売却することが法的にできなくなります。そのため、老人ホームの入居費用などについても子供や家族が立て替えることになります。

対策方法

このよう事態の対策方法は大きく2パターンあります。あらかじめ家族信託をしておき、自分以外の家族(子供などの将来的な相続人)に財産の管理を任せておく方法と、成年後見制度を利用する方法です。

どちらも認知症の人の代わりに財産を管理・処分できるという点では同じですが、家族信託であれば任意の人に依頼しやすく、管理や処分についてもかなり柔軟に行うことができます。

家族信託成年後見制度
導入できる時期健康な時から利用可能意思能力がないと診断されてから
(※任意後見制度であれば健康な時から利用可能)
管理を任せる人財産の所有者が決めることができる裁判所によって選任された人
(※任意後見制度であれば本人が決めることが可能)
管理・処分の手続きあらかじめ取り決めた信託契約内であれば自由に管理・処分が可能家庭裁判所の許可が必要。
(被後見人のメリットにならないものは許可されない)
支払いが必要な報酬信託契約を結んだ時に決めた報酬を受託者に支払う
(家族間であれば報酬等がない場合もある)
弁護士等が後見人に選ばれた場合、後見報酬を支払い続ける必要がある
身上監護機能(※)なしあり
管理期間信託契約に定めた期間被後見人が死亡する、もしくは病状が回復するまで

※身上監護機能・・・成年後見制度に設けられているもので、後見人が被後見人の生活や治療・介護に関する法律行為を行うことを指します。

成年後見制度については「親が認知症になる前の対策!認知症の財産管理対策4選のご紹介」の対策①でご紹介していますのでご参考にしてださい。

ケース② 相続人の認知症・重度障害対策

例えば妻が認知症になっている場合に夫が不動産の財産を残して亡くなったとします。この時、通常の相続では妻には意思能力がないとみなされているため、不動産等の財産を相続したとしてもその財産を使うことができません。

現金であれば生活費として後見人が正しく管理して使用することができますが、不動産となるとその処分等は後見人でも自由には行えなくなります。

対策方法

このような場合でも、夫が生前に信託契約を結び、子供を受託者、妻を受益者としておくことで、認知症の妻は不動産を所有せずにその不動産から得られる利益を受け取ることができます。

また、信託契約の契約内容次第ではありますが、契約解除のタイミングを「受益者の死亡」にしておくことで、元の不動産の所有者で有る夫が亡くなった後でも、妻が生きている限り信託契約は有効となります。

妻が認知症でない場合でも、使い方次第では不動産を相続させるよりも、妻の財産を守ることにつながる場合もあります。

不動産から得られる利益は金銭的なものだけではなく、居住用の不動産であれば「住む権利」も利益に含まれます。

ケース③ 未成年の子供への相続に利用する

子供が未成年の間に財産を所有している父がなくなると、子供は右も左もわからぬまま相続人となります。

未成年の場合は相続手続き等を自分で行うことができませんので、母親などの法定代理人が相続手続きを行います。(母親も相続人の場合は家庭裁判所に特別代理人の請求を行います)

法定代理人はあくまでも相続人である未成年の子供の利益になるための分割を求めることになりますが、実際に不動産を相続したとしても、未成年で有る子供ではその不動産の管理を十分に行うことができません。

年間の固定資産税の支払いですらままならない状況になります。また、いきなり手にした大きな財産によって金銭感覚が狂ってしまったり、周りの大人に騙されてしまうなどの被害にあうことも考えられます。

対策方法

信頼のできる家族・親戚、もしくは司法書士等に財産の管理を任せる受託者になってもらい、その財産から生まれる利益を受け取る受益者に子供を指定します。

受益者は一人ではなく複数人指定することができますので、子供が複数人いる場合にも対応できます。また、受託者にも受益者になってもらうことで、管理による報酬として支払うことが可能です。

一般住宅の場合は、不動産等の財産管理から利益が生まれることはないため、このような対策を取ることが難しいのですが、賃貸用の不動産を所有している場合などは有効な対策方法です。

相続時に遺言書を残しておくことで同じような管理の方法は可能ですが、家族信託であれば所有者が生きている間から受託者の財産管理についても確認できるため、受託者との信頼関係を確認しながら進めることができます。

ケース④ 自己信託による財産の保護

浪費癖のある家族(妻・夫・子供など)がいてその家族の生活費等を援助する必要がある場合、生活費等の援助だけでは満足できずに所有している財産にまで手が伸びてしまう可能性があります。

また、不動産等の財産自体を贈与した場合も、浪費癖があったり認知症等により正常な判断ができない場合は、贈与によっててにした不動産等を正しく管理できない場合があります。

対策方法

家族信託には「委託者=受託者」という自己信託という形の信託方法があります。この場合利益を受け取る受益者は別の人に設定することになります。

受益者である家族は、不動産等の財産から生まれる利益を受け取りつつ、管理自体は不動産の所有者である委託者自らが行うことができるので、浪費癖がある子供や認知症の妻などに安全に財産の贈与を行うことができるようになります。

ただし、このような自己信託を行う場合次の点に注意が必要です。

①自己信託は原則、公証役場で「自己信託設定公正証書」の作成が必要になる
②委託者(受託者)が亡くなった後の管理等についても定めておく必要がある
③受益者への”みなし贈与”として贈与税の課税対象となる

その他にもたくさんある家族信託の使い方

今回の記事でご紹介した4つのケースは、家族信託の使い方のごく一部のケースです。認知症や重度障害の対策以外にも、事業承継のために使用するケースや、自己信託をうまく使った生活保障に備えるための家族信託の利用方法などもあります。

中には本来の家族信託の使い方から少し逸れてしまっているようなケースもありますが、そのような使い方の場合今後の法改正によって不利益が生じる可能性もあります。

どの制度でも同じですが、制度の穴を狙ったような使い方をするのではなく、制度が作られた本来の目的の中で正しく使うようにしましょう(^^)

住居用不動産では「住む人=受益者」

家族信託の話では利益を受け取る人のことを「受益者」と呼びます。受益者と聞くと、なんの利益も生み出さない住居用不動産(普段生活するためだけに使用している物件)だと、受益者ってなんだろう?と感じる人も多いと思います。

住居用の不動産の場合、「所有者=委託者」「管理する人=受託者」「住む人=受益者」というような考えになります。

そのため、相続後に認知症の妻を今の家に住まわせたまま、子供の家の管理をさせるなどといった場合でも家族信託は有効な制度です。

家族信託にかかる費用はどれくらい?

家族信託にかかる費用は信託契約の内容によっても異なりますが、一般的に必要な費用は次の通りです。

  • 印紙税:契約書1通に付き200円
  • 登録免許税:不動産の登記が必要な場合
  • 専門家への相談・報酬:専門家(弁護士・税理士等)に依頼する場合
  • 公正証書作成費用:自己信託を行う場合

印紙税以外の費用については、家族信託を行う財産の金額などによっても変動するため、金額は人によって変わります。

家族信託は家族間での話し合いがメインになる契約ですが、財産という大きなお金が関わる内容になりますので、必ず専門家を入れて正しい契約を行うようにしましょう。

財産管理は家族での話し合いが始まりのきっかけ

家族信託をはじめとした、認知症や重度障害に備えた財産管理は、家族間での十分な話し合いが必要不可欠です。

お互いの健康のこと、仕事のことなどを十分に話し合い、持っている財産について今後どのように管理していくのがいいのか、専門家を交えて話し合う機会を設けてみてください。

弁護士や司法書士等の専門家にいきなりの相談をするのは、相談料などの負担があるという方であれば、不動産の管理であればアイビスホームにお越しください。いつでも無料でご相談していただけます(^^)

そのうえで、より専門的な法律知識が必要になった場合など、お客様のご要望があれば信頼のおける士業の先生方をご紹介させていただきます。