不動産・自動車・銀行口座・有価証券・・・相続登記が必要な遺産が多くなるほど、手続きは大変になります。そして、手続きに期限や罰則がないことを理由に、面倒で利益の少ない遺産については、ついつい手続きを後回しにしがちです。

少しでも相続人の負担を減らし、未登記の遺産を減らすために新しい制度なども用意されています。その一つが今回ご紹介する「法定相続情報証明制度」です。

全ての人にメリットがあるという訳ではありませんが、多くの場合はメリットの大きい制度ですので、この記事を参考にしていただければ幸いです。

法定相続情報証明制度ってどんな制度なんですか?

簡単にいうと、相続関係のわかる「家系図」の信頼性を法務局が保障してくれるというような制度です。

法務局が保障してくれると、相続人にとってどんなメリットがあるんですか?

保障された家系図(法定相続情報一覧図)がある事で、各手続きに提出する書類を減らすことができ、相続登記全体にかかる時間を短縮することにも繋がります。

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法定相続情報証明制度とは?

法定相続情報制度とは、面倒な相続手続きを少しでも簡略化し、相続登記を促進するために新設された制度です。被相続人と相続人の関係のわかる家系図(法定相続情報一覧図)の信頼性を法務局が保障することで、手続きごとに必要だった戸籍謄本等の束を「法定相続情報一覧図」の一枚で済ませることができるようになります。

法定相続情報一覧図とは

法定情報相続一覧図とは、簡単に言えば「家系図」のようなものです。被相続人と相続人の関係がわかるようにまとめられたもので、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本をもとに作成します。

作成自体は自分で行うか代理人(司法書士・弁護士など)に作成してもらいますが、作成した段階では相続の手続きに使用することができません。

作成した法定情報相続一覧図は、法務局で手続きを行うことで、相続関係を証明する戸籍謄本の束の代わりとして正式な書類として使用することができるようになります。

一覧図の様式や記載例は法務局のHP「http://houmukyoku.moj.go.jp/homu/page7_000015.html」をご参考にしてください。

どんな手続きに使用することができる?

法定相続情報証明制度を利用してできる手続きは、主に次の通りです。

  • 不動産の相続
  • 自動車の相続
  • 預貯金の相続
  • 有価証券の相続
  • 相続税の申告

ただし、この制度自体が「平成29年5月29日」から始まった新しい制度のため、手続きをする機関によっては従来通りに戸籍謄本等が必要になる場合があります。

法定相続情報証明制度を利用するには?

法定相続情報証明制度は、法定相続人であれば誰でも利用(申請)することができます。

手続きには作成した法定相続情報一覧図を法務局に登録する「法定相続情報一覧図の保管申し出手続き」と、登録した一覧図を再交付してもらう「再交付の申し出手続き」があります。

法定相続情報一覧図の保管申し出手続きの流れ

法定相続情報証明制度を利用するには、まず所定の登記所(法務局)に法定相続情報一覧図の保管申し出を行う必要があります。申し出の流れは次のとおりです。

  1. 必要書類を集める
  2. 法定相続情報一覧図の作成
  3. 申出書の作成
  4. 登記所(法務局)への申し出

1、必要書類を集める

法定相続情報証明制度の申し出に必要となる、基本書類は次のとおりです。

  • 被相続人の戸籍謄本(出生から死亡まで)
  • 被相続人の住民票の除票
  • 相続人全員の戸籍妙本(被相続人が死亡した日以降に取得したもの)
  • 申出人の本人確認書類(運転免許証・マイナンバーカードなど)

申し出の方法や、作成した法定相続情報一覧図によっては別の書類が必要になる場合もあります。詳しくは法務局で用意しているPDF「必ず用意する書類 / 必要となる場合がある書類」をご覧ください。

戸籍謄本などを取得するときは、他の相続手続きに必要な書類もまとめて取得すると効率的です。不動産の相続登記に必要な書類については「相続登記の必要書類を効率よく集めるためには?一覧表から取得方法までご説明」をご覧ください。

2、法定相続情報一覧図を作成する

法務局では法定相続一覧図の信頼性を保障してくれるだけであって、一覧図自体は自分で作成して申し出を行う必要があります。集めた被相続人の戸籍謄本を辿りながら、必要な情報をまとめていきます。

一覧図の様式や記載例については、法務局のHPにエクセル形式で用意されていますので下記のURLからダウンロードできます。

http://houmukyoku.moj.go.jp/homu/page7_000015.html

また、ご自身で作成するのが難しい場合、戸籍謄本の見方がわからない場合は、無理して自分で作ろうとせずに専門家にご相談ください。アイビスホームにご相談しに来ていただければ、親切で間違いのない先生をご紹介いたします。

3、申出書を作成する

申し出を行うためには「法定相続情報一覧図の保管及び交付の申出書」の記入が必要になります。法務局のHPに用意されている申出書をダウンロードしてあらかじめ記入しておきましょう。

http://houmukyoku.moj.go.jp/homu/page7_000014.html

4、登記所(法務局)への申し出をする

全ての書類を揃えることができたら、法務局に申し出をします。申し出をする法務局はどこでもいいというわけではなく、次の地を管轄している法務局の中から選ぶことができます。

  • 被相続人の本籍地(死亡時の本籍を指します。)
  • 被相続人の最後の住所地
  • 申し出人の所在地
  • 被相続人名義の不動産の所在地

法務局の場所や管轄地がわからない場合は、下記のページから管轄地域をご確認ください。

http://houmukyoku.moj.go.jp/homu/static/kankatsu_index.html

法定相続情報一覧図保管の申し出の注意点

法定相続情報証明制度の申し出を行う際は次のことに注意してください。

  • 被相続人の死亡に起因する相続手続き(年金手続きも含む)にのみ使用できる
  • 法定相続情報一覧図には実際には相続をしない人も含まれる(相続放棄や分割協議によって)
  • 書類に不備がある場合は再提出が必要。再提出がされない場合は書類が返却される(郵送される場合は申出人が郵送料を負担。)
  • 書類の返却に応じない場合は申出日から3ヶ月後に書類を全て破棄
  • 申請に必要な申出人の本人確認書類は返却されない。(住民票を返却希望される場合はコピーを用意)

法定相続情報一覧図の再交付の申し出手続きの流れ

一度法務局で保管をしてもらった法定相続情報一覧図は、申出日の翌年から起算して5年間保存され、その間は無料で再交付をしてもらうことができます。

また、相続人全員が再交付をしてもらえるわけではなく、保管の申し出をした「申出人」とその代理人だけが再交付の申し出を行うことができます。

代理申し出を行う場合

代理申請には「法定代理人」と「委任による代理人」の2種類があり、どちらの代理人が申請するかによって、必要な書類が変わります。

法定代理人による代理申し出の場合

申し出人が未成年の場合など、法律による代理権を有する人がいる場合は、法定代理人として申請を行うことが可能です。法定代理人の種類によって必要になる書類がことなります。

代理人必要書類
親権者または未成年後見人戸籍謄本
成年後見人または代理権付与のある保佐人・補助人後見登記等ファイルの登記事項証明書
不在者財産管理人または相続財産管理人選任審判書

委任代理人による代理申し出の場合

法定相続情報証明制度の申し出は、誰にでも委任できるわけではなく、次の人のみ代理人になる(委任する)ことができます。

  • 親族
  • 遺言執行者
  • 弁護士
  • 司法書士
  • 土地家屋調査士
  • 税理士
  • 社会保険労務士
  • 弁護士
  • 海事代理士
  • 行政書士

委任された代理人が申し出を行う場合は、次の書類が必要になります。

  • 委任状
  • 所属団体(弁護士会・司法書士会など)の会員証コピー
  • 法人の登記事項証明書(代理人が法人の場合)

郵送による申し出を行う場合

法定相続情報一覧図の写しを交付してもらう場合は、郵送で申し出を行うことができます。

郵送での申し出を行うときは、申出書と返信用の封筒と切手を同封して、管轄の法務局に郵送をしてください。

申し出だけを郵送で行い、受け取りは窓口で行う場合、申出書の「申出人の表示」に押印した印鑑を持参して、申し出をした法務局の窓口で受け取りをしてください。

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法定相続情報証明制度のメリットとは?

法定相続情報証明制度は相続人の負担を減らし、相続登記を促進するために作られた制度なので、相続すべき財産が多くある人ほどそのメリットを生かすことができます。

  • 必要書類の取得費用・手間を削減できる
  • 相続登記にかかる時間を短縮できる
  • 登記官に戸籍内容を確認してもらえる
  • 5年以内であれば必要な時に再交付が可能
  • 書類をなくすことが少ない

必要書類の取得費用・手間を削減できる

相続登記に必要な全ての書類を省くことができるわけではありませんが、被相続人・相続人の戸籍謄本などの書類をまとめることができるため、書類の取得必要や取得の手間を削減することができます。

例えば、不動産・自動車・株券の3つの財産を相続登記する場合、従来はそれぞれの手続きに1セットずつの「被相続人の戸籍謄本」「相続人全員の戸籍妙本」などが必要でしたが、法定相続情報証明制度を利用することで、法定相続情報一覧図一枚で代わりとすることができます。

また、一度保存してもらえれば再交付が無料なので、複数枚必要になった場合でも取得費用がかかることはありません。

相続登記にかかる時間を短縮できる

従来の相続登記ではそれぞれの手続きのたびに相続関係が正しいかどうかの念入りなチェックが必要でしたが、法務局が認証した法定相続情報一覧図があることでチェックの時間も短縮され、間違いも少なくなります。

また、それぞれの手続きが完了するまで被相続人の戸籍謄本などの必要書類は返却されないため、手続き開始から完了までの間は他の手続きができません。(戸籍謄本などを複数セット用意する必要がある)

不動産登記などでは登記申請から完了まで10日間程度かかります。法定相続証明一覧図を2枚発行してもらえれば、この申請から完了までの間に他の相続登記の申請も行うことができるため、相続登記にかかる時間を短縮することができます。

登記官に戸籍内容を確認してもらえる

もし自分で相続登記を行おうとしているのであれば、これが一番のメリットになるかもしれません。

法定相続情報一覧図の作成自体は自分で行う必要がありますが、作成した一覧図が正しいものかどうかは法務局の登記官が確認して認証します。

そのため、もし作成したものに不備があった場合や、集めた書類に不備があった場合でも、この時点で登記官から訂正を求めてもらうことができます。

※簡単な相続登記であれば自分でできる場合もありますが、必ずしも自分で手続きをするのがお得になるとは限りません。自分で手続きを検討されている方は「本当にお得?不動産の相続手続きを自分で行う方法とリスク」を一度チェックしてみてください。

5年以内であれば必要な時に再交付が可能

法定相続情報一覧図の保存期間は、申出日の翌年から起算して5年間のため、期間中であれば無料で再交付をしてもらうことができます。無料でというところもメリットではありますが、それ以上のメリットは「5年間」という期間です。

不動産相続だけではなく、多くの相続登記にはいつまでに相続しなくてはいけないといった「期限」が設けられていないことがほとんどです。

※不動産の相続登記の手順・期限については「不動産の相続はいつまでに何をする?相続手続きの期限をチェック!」をご覧ください。

そのため、時間がたってから相続できる財産が発覚した場合でも、5年以内であれば保存している一覧図を再交付してもらい手続きに使うことができます。

専門家に依頼して相続登記をお願いする場合は、財産の調査なども行ってくれますが、自分で相続登記をする場合には後から発覚することも少なくありません。

※相続登記の期限はなくても、銀行口座の休眠など手続きが複雑になる場合もあります。財産調査は専門知識がないと難しい場合もありますので、専門家に相談することをお勧めいたします。

書類をなくすことが少ない

被相続人の戸籍謄本の数が多い場合や、相続人がたくさんいる場合など、従来の方法だと書類が束で必要になることがあります。

必要書類をファイルなどにまとめていたとしても、書類が多くなればそれだけ紛失する危険性も増えてしまいます。

法定相続情報証明制度を利用することで、戸籍謄本等の束を少ない枚数(1,2枚)にまとめることができるので、紛失の可能性を減らすことができ、申請時の持ち運びなども楽になります。

法定相続情報証明制度のデメリットについて

法定相続情報証明制度を利用したからといって不利益を被るようなデメリットはありませんが、次のようなデメリットもあります。

  • 不動産の相続手続きだけであれば手間が増える
  • 一部の機関では対応していない場合もある

不動産相続手続きだけであれば手間が増える

不動産相続だけに限ったことではありませんが、相続する遺産の種類が少ない場合は、法定相続情報証明制度の申し出を行う手間だけが増えてしまう可能性もあります。

一つの目安としては3種類以上の相続登記が必要な遺産がある場合には、法定相続情報証明制度を利用することで、手続きを簡略化できます。

実際には「銀行口座」や「自動車」については多くの被相続人が所有している場合が多いので、不動産相続が必要になる相続では「銀行口座」「自動車」「不動産」の3種類の相続登記が必要になるため、デメリットはほとんどありません。

一部の期間では対応していない場合もある

平成29年から始まった比較的新しい制度ということもあり、まだ対応していない金融機関などがあります。そのような機関で手続きをする場合は、従来通りに戸籍謄本などのセットが必要になりますので、場合によっては法定相続情報証明制度のメリットを感じれないことがあります。

また、実際には法定相続情報一覧図でも手続きができるのに、窓口の担当者が知らずに断られてしまうという事もあるようです。もし断られてしまった場合は、「法定相続情報一覧図でもだめですか?」と柔らかく確認してみてください。

法定相続情報証明制度で相続登記の負担を減らしましょう

まだまだ一般にはあまり浸透していない事もあり、窓口での対応で断られてしまう場合もあるようですが、この制度が広まることで相続登記の負担もかなり軽くなると思います。

特に次に当てはまる人にとってはメリットの大きい制度ですので、ぜひ利用してみてください。

  • 自分で相続手続きを行おうとしている人
  • 被相続人の遺産の種類が多い人
  • 被相続人の遺産をあまり把握できていない人
  • 被相続人・相続人の戸籍謄本などが遠方でしか取得でいない人

不動産では相続登記がされずに空き家のまま放置されてしまっている物件もあり、相続登記がされないことが問題視されています。今後義務化されるという動きもありますので、できるだけ負担を減らして正しく相続をしましょう。

相続に関して少しでもご不安がある場合は、自分で解決するのではなく一度でも専門家に相談するようにしてください。

どこに相談にいけばいいのかわからなければ、気軽にアイビスホームにきてください。相続診断士の資格のある窪多が相談に乗らせていただきます。

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