配偶者居住権とは?制度の説明・登記方法・背景について
今回は令和に入って新しく創設された「配偶者居住権(はいぐうしゃきょじゅうけん)」についてご説明していきます。
高齢化や、離婚率・再婚率が上昇している現代では、特に必要となる相続知識の一つです。家族の形の多様化に合わせて、法律が変わっていくように、大切な家族を守るために必要な知識も日々変わっていきます。
自分で解決するための知識ではなく、専門家に相談するための知識として、相続に関する知識を増やしていきましょう。
配偶者居住権を正しく使えば、配偶者はもちろん、自分の子どもへの相続権利も守ることができるんですよね
その通りです。配偶者居住権は難しい制度ですが、正しく使うことで多くの家族の形に合わせた相続を実現する事ができます。
その分手続きや考慮するべき点が多くありますので、必ず専門家に相談をして、制度を利用するべきかどうか慎重に判断するようにしましょう!
配偶者居住権とは?
配偶者居住権とは、被相続人が所有する建物に住んでいる配偶者が、建物の所有権を相続せずにそのまま無償で住み続けることができる権利のことです。
この配偶者居住権は、民法1028条~1041条によって定められている相続法の一つです。相続法は2018年7月に約40年ぶりに大きな改正が行われ、令和2年4月1日に配偶者居住権が新しく施行されました。
相続法・・・民法5編(882条〜1050条)の条文の総称
要件(配偶者居住権が認められる条件)
配偶者居住権が認められるには年齢や婚姻期間に関する要件はありませんが、被相続人との関係性などの「基本要件」と、権利を取得するための「追加要件」が必要になります。
また、万が一配偶者が相続人かして欠格事由に該当する場合、または排除されていた場合には配偶者居住権が認められません。
基本要件
- 配偶者居住権を設定しようとする建物が、被相続人の所有物であること
- 配偶者居住権を取得する相続人が、被相続人の戸籍上の配偶者であること
- 相続発生時に対象の建物に住んでいること
配偶者居住権は、被相続人と配偶者は戸籍上で配偶者になっている必要があります。そのため、内縁の妻や事実婚の場合は権利が認められません。
また、対象の建物が、被相続人と配偶者以外の人と共有(共有登記)されている場合にも、配偶者居住権を設定することができなくなります。
相続登記を放置している場合、被相続人が知らないだけで兄弟姉妹と共有登記になっている場合があります。相続で取得した建物に住んでいる場合は、あらかじめ確認しておきましょう。
放置された相続に関する問題は「数次相続とは?放置によって複雑化した相続は迷わず専門家に相談しましょう!」でもご紹介していますので、ぜひ参考にしてください。
追加要件
基本要件を満たしている場合、下記のどれかの方法で権利を取得することで、初めて配偶者居住権の設定をすることができるようになります。
- 遺産分割協議による決定
- 遺言書による決定
- 死因贈与による決定
- 家庭裁判所の審判による決定
配偶者居住権の設定が必要になるケースとして、相続人と配偶者の関係性がよくない事が多くあります。
その場合、遺産分割協議では配偶者居住権を得ることが難しくなりますので、あらかじめ遺言書や死因贈与の契約などをしておく必要があります。
存続期間(いつまで住み続ける事ができるのか)
配偶者居住権によって、配偶者が住み続ける事ができる期間は原則として「終身」となります。
ただし、配偶者居住権を取得するための「遺産分割協議」または「遺言書」などで期間が定めれられている場合は、例外となります。
配偶者居住権が消滅する(させる)事由
配偶者居住権は永遠に続くのではなく、特定の事由があることで消滅する(させる)事ができます。
- 存続期間の満了
- 災害や火事などで建物の全部が消失
- 用法違反に基づき、所有者が配偶者居住権の消滅請求をした場合
- 配偶者が配偶者居住権を放棄した場合
- 配偶者と所有者の両者が合意解除した場合
存続期間が満了していなくても、両者の合意がある場合などは配偶者居住権を消滅させる事ができますが、譲渡所得税やみなし相続税がかかる場合がありますので、配偶者居住権の設定・消滅には専門家にきちんと相談するようにしましょう。
配偶者居住権の設定登記方法について
配偶者居住権は自動で発生する権利ではありませんので、きちんと権利を登記しておく必要があります。これは「遺産分割協議書」や「遺言書」に記載されていたとしても、その記載とは別に登記をする必要があるという事です。
登記は法務局で申請をします。この時の申請人は「配偶者」と「所有者」の両者となりますので、配偶者単独で登記をする事ができません。
建物の所有者は、配偶者居住権の登記について協力する義務はありますが、両者の仲が悪い場合などは登記がスムーズに行えない場合もあります。
設定登記をスムーズに行うためには
万が一、建物の所有者が配偶者居住権の設定登記に応じない場合は、裁判で許可を得ることで「単独申請」を行うことも可能です。ただし、裁判費用などの出費や時間がかかるため、できるだけスムーズに設定登記が行えるようにしておく事が重要です。
特に効果的なのが「遺言書」を作成しておく事です。被相続人が生前に遺言書を残している場合、相続手続きは遺言執行者が代行する事ができます。そのため、所有権を相続した相続人が、設定登記に応じないというケースがなくなります。
また、死因贈与契約と配偶者居住権を仮登録しておく事で、被相続人の生前から配偶者居住権を保全することもできます。この場合、本登記に関しては建物の所有者の申請も必要になりますので、合わせて遺言書も書いておくようにしましょう。
遺言書を書くときには、「相続」と「遺贈」などの言葉の違いに注意しましょう。どちらも同じ譲渡することに変わりありませんが、遺言書として持つ効力が異なります。
配偶者短期居住権との違いは?
配偶者居住権と同時に作られた法律に「配偶者短期居住権」というものがあります。名前も内容も似ていることから、同じものと勘違いされやすいのですが、別の法律になりますので注意しましょう。
配偶者短期居住権は、①遺産分割協議によって相続が確定するか、②相続開始から6ヶ月間、配偶者が無償で住み続ける事ができる権利です。①②のどちらか期限が遅い方が適用されます。(最短でも6ヶ月は住む事ができる)
この権利は配偶者居住権とは異なり、自動で適用される権利で、特に手続き等は必要ありません。
配偶者居住権を使うと普通の相続とは何が変わる?
配偶者居住権を設定すると、一つの建物の価値を「所有権の価値」と「居住権の価値」の2つに分けることができます。(※居住権は被相続人の配偶者のみ)
これにより、配偶者は「その建物の居住権と価値」を相続し、そのほかの相続人(被相続人の子供など)は「その建物の所有権と価値」を相続することができるようになります。
このようにそれぞれの権利に価値をつけて相続を分けることで、配偶者は今まで通りの家に住み続けながら、生活費などの現金を確保する事ができるようになります。
配偶者居住権を使わずに相続をする場合
例えば相続人が「配偶者」と「子供一人」で、被相続人の遺産が「4,000万円の建物」と「2,000万円の現金」とします。この場合、配偶者が建物の所有権を相続して住み続けるには、子供に1,000万円を渡す必要があります。(図1)
多くの場合、被相続人と配偶者は同じ預貯金を生活にしているので、配偶者は1,000万円という現金を用意するのが困難になります。それにより建物を売却する必要があるなど、本末転倒の結果になる事があります。
配偶者居住権を使って相続する場合
同じ条件でも、配偶者居住権を使う事で配偶者と子供にそれぞれ1,000万円ずつの現金を相続させる事ができるようになります。(図2)
このように建物の権利と価値を二つに分けることで、配偶者の住む家と生活費の両方を確保できるのが、この配偶者居住権の最大のメリットです。
実際の配偶者居住権の価値は、建物の耐用年数や配偶者の相続時の年齢など、複雑な計算で決められます。具体的な金額については必ず専門家に相談をしてください。
法定相続分以外の分割で相続すればいいのでは?
上記の例ではあくまでも法定相続分(配偶者1/2、子供1/2)で相続した場合を例にしています。多くの相続では配偶者がそのまま家に住み続けられるように子供の相続分を少なくするなどで話がまとまり、トラブルになることはありません。
ただし、近年では高齢化や離婚・再婚率が高くなっていることもあり、相続人である配偶者と子供に血縁関係がない場合も多くなっています。
このような場合にトラブルに発展しやすくなりますので、特に再婚している場合にはあらかじめ遺言書を残しておくなどの、対策が必要になります。
配偶者居住権が創設された背景とは?
今回の記事で紹介してきたように、配偶者居住権は配偶者の居住権を守るために創設された法律です。この法律が創設されたのにこんな背景があります。
平成25年12月5日(同月11日公布・施工)に婚外子と婚内子の相続分を同じにする民法の改正がありました。これにより、再婚している場合の配偶者の相続分がへりました。
また、再婚だけではなく、愛人の子供であっても婚内子と同じ相続分となるため、配偶者から住む場所を取り上げるような相続トラブルが多くなりました。
そのため、配偶者の住む場所を守る制度が必要になり、配偶者居住権が創設されました。
配偶者居住権は生前からの話し合いが大切です
配偶者居住権が必要になる場面は、再婚している場合など夫婦間の婚外子がいる場合が多くなります。そのため、相続が発生する前にある程度その必要性について判断する事ができます。
生前から話し合いをしておき、必要に応じて遺言書や死因贈与契約をしておくことで、相続トラブルを防ぎ、配偶者だけではなく子供の権利も守ることに繋がります。
少しでも配偶者居住権の必要性を感じた場合は、一度専門家にご相談をすることをお勧めいたします。
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